青山剛昌×羽生善治 スペシャル対談!!!

 

漫画界と将棋界。それぞれの世界で圧倒的なトップを走り続けてきたレジェンド2人の、まさかの対談が実現!


ここでは、サンデー本誌には収まりきらなかった貴重なトークを一挙公開!

さらには、アプリ版サンデーうぇぶりで羽生先生お気に入りのエピソードも無料開放!

 

青山剛昌

1986年に『ちょっとまってて』で第19回小学館新人コミック大賞に入選し、同作品でデビュー。

94年『名探偵コナン』連載開始。同作品の全世界発行部数は、2億7千万冊を超える。

 

羽生善治

1985年に中学3年でプロ棋士になると、89年には初タイトル(竜王)を獲得。

94年、九段に昇進。2017年、史上初の永世七冠を達成。

翌年、国民栄誉賞を授与される。現在、タイトル獲得通算99期。

 

羽田秀𠮷はどう生まれたか

──青山先生は漫画、羽生先生は将棋の世界で、何十年も第一線で活躍してこられました。

お二人の初対面での印象はいかがですか。

 

青山 思ったより柔らかい人だなと(笑)。もうちょっと難しい人かなと思ってたんですけど、明るくて、話しやすくていいですね。

 

羽生 よかったです(笑)。私はもちろん、ずっと昔から『名探偵コナン』を知っていましたけど、青山先生という人が本当に実在している。

あまりにも作品の存在が強いので、今日、御本人にお会いできてとても嬉しいです。

私はこれまで様々な職業の方と会う機会があったのですが、漫画家の先生にはほとんど会ったことがないんです。

 

 

──青山先生と羽生先生といえば、最大の接点は羽田秀𠮷ですよね。

 

青山 チュウ𠮷のモデルはもちろん羽生先生です。

七冠を獲られた頃の印象が強くて、あんなキャラ出したい!って思ってました。

羽生先生はオレら世代のヒーローですから。

 

羽生 光栄です。もう27年も前の事になります。

 

青山 その頃の羽生先生が、寝癖をつけたまま将棋を指してらしたのを見て、チュウ𠮷にも寝癖をつけました。

それに対局中ショートケーキを爆食いするところ。あれはカッコよかったですよ。

「おー! 新しい人出てきた!」と思って、その時のまま、漫画にしちゃいました(笑)。

 

羽生 でも自分がモデルだったらすごすぎます。

だから羽田秀𠮷は、私をモデルにして頂いた上で、さらに進化系にしてくれたような感じですかね。

自分は推理力ゼロですから。

 

青山 いやいやいや!

 

▲羽田秀𠮷。言わずもがな、羽生先生がモデル!

 

 

──羽生先生は秀𠮷にシンパシーは感じますか?

 

羽生 秀𠮷も相当破天荒だと思いますけど、家族からは「本人の方が破天荒」と言われます。

 

青山 確かにチュウ𠮷のほうが慎重かもしれない。由美さんとのラブコメとかね(笑)。

 

羽生 七冠を獲るまで待ってくれって、なかなか言えないですよね。

二面性といいますか、いろんな顔を持っているところがすごく素敵なキャラクターだなと思います。出てきた時は、棋士だとわかりませんし。

 

青山 最初はマンション住人ですからね。一見変なやつが実はすごい刑事だったり、その方が面白いですよね。

七冠といえば、チュウ𠮷が獲るときに「史上二人目」って漫画の中で描いたんですよ。あれは先に羽生先生がいらっしゃるからなんです。

でもチュウ𠮷は七冠を獲った後でもう一回失っちゃったので、また一年経たないと獲れないから大変です(笑)。

それに今は叡王戦が増えて、タイトルが八つになりましたし。

 

羽生 すみません、増えちゃって(笑)。作中の方も、もしよろしければ増やしてください。八は末広がりということで。

 

青山 それとチュウ𠮷には「太閤名人」っていうあだ名があるんですけど、これも羽生さんの「羽」をとって「羽田」って苗字にしたら「羽田秀吉」になって…「羽柴秀吉」と一字違いってことで太閤にしたんです。

当の豊臣秀吉は将棋は弱かったって聞いたんですけど。

 

羽生 将棋の「名人」っていう称号は徳川時代に確立されたのですが、それ以前の戦国武将たちも将棋をやっていたらしいんです。

中でも秀吉はあんまり強くなかったので、自分の飛車先の歩を取り除いて指していたというエピソードがあります。

歩がないと、いきなり飛車が成れるじゃないですか。

 

青山 へぇー!ずるい(笑)。面白いですね。

 

 

──羽生先生はご家族と一緒によくコナンをご覧になってらっしゃるとお伺いしています。

お好きなキャラクターはいらっしゃいますか?

 

羽生 うーん、悩みますね。でもやっぱりコナン君かな。服部平次も好きです。

対比するようなキャラクターといいますか、東西のライバルですからね。

うちの娘は劇場版の『迷宮の十字路』が大好きで、何十回もその話を聞かされました(笑)。

ここの六角通りはどうだとか、実際行ってチェックしています。 聖地巡礼です。(笑)

 

青山 じゃあ来年の映画はすごい好きだと思いますよ。楽しみにしててください。

 

若い才能に向き合う

──先日の藤井王将との王将戦については、青山先生はどのようにご覧になりましたか?

 

青山 羽生先生をめっちゃ応援してたんです。だから二勝二敗になって「よしよし」と思ってたんですけど、残念でした。

 

羽生 ありがとうございます。将棋の世界はかなり年代が離れていても対局ができるのはいいところですけど、さすがに30歳ぐらい離れてしまうと、すれ違ってしまうということも多いので、今年実現できて良かったと思っています。

私、昔の人だと明治生まれの人とも対局したことがあるのですが、それぐらい歳が離れた人とも対局できるのが将棋のいいところかなと思っていますね。

青山先生は若手の漫画家さんについて、どのようにお考えになっていますか。

 

青山 オレ的には戦いたくないです、負けちゃうんで(笑)

 

羽生 いやいや、とんでもない。でも、青山先生に憧れて漫画家になった方に会ったりしますよね?

 

青山 結構いらっしゃいますけど、「オレのどこに?」みたいな(笑)。

たまにサンデーの謝恩会とかで、アドバイスしてますよ。読みやすい吹き出しの配置を教えたり。

 

羽生 教えてらっしゃる中で感じる、若手とご自身の世代の違いってありますか。

 

青山 新人漫画賞の原稿を読んでると、表紙(トビラ)を描かず、いきなり漫画が始まっちゃうんですよ。

オレらの世代は絶対トビラがあって、それをめくると始まるって感じだったんだけど、今はみんなスマホで読んでますからね。

若い子は絶対スマホ向けに描いていますよ。見開きもなかなか使えなくなってきましたね。

 

 

──羽生先生は若手の方の将棋をご覧になってどうお感じになりますか。

 

羽生 文法は間違ってないけど、自分はこういう言葉遣いしないっていうような言葉を聞いてる感じですね。

ルール違反はしてないのですが、普段の自分では指さない、発想にそもそもないような手で。

でも将棋の世界の場合、新しいアイデアは若い人から出てくることがすごく多いです。

なので、そういう若い人たちの棋譜を参考に取り入れてキャッチアップしていますね。

 

青山 オレも未だに若い人の絵、真似したりしますよ! 爪の描き方とか表情とか、昔と変わってきてるんで。

「あ、こういう表情流行ってるんだ、オレもやろう」って直しますね。合わせすぎちゃっても微妙だから、ちょっとオレ風にして。

 

羽生 漫画にも描き方の流行り廃りってあるのですね。世間一般の流行とも関係してるのですか?

 

青山 ルーズソックスみたいな流行りは取り入れないようにしてますけどね。廃れちゃったらダメじゃないですか。

たまに使っちゃいますけど、あんまり取り入れないようにして、スマホとかタブレットとか、定着するようなものだけ描くようにしています。

 

 

羽生先生が選ぶ「将棋×コナン」名エピソード

──青山先生は将棋が昔からお好きだったのでしょうか?

 

青山 将棋ネタはずっと好きなんです。オレは全然将棋強くないんですけどね。

昔、科学者の兄貴とはよく遊んでたんですけど、勝ったことがない。

 

羽生 コナンには将棋をモチーフにしたお話がたくさんありますよね。ああいう将棋を活かしたトリックはどのようにお考えになっているんですか。

 

青山 今回は将棋の話にしようって決めたら、ネットでまず検索するんです。

駒の意味や将棋用語を調べて、その中で使えるなと思ったやつでトリックを決めたりします。「用意した一着」とか、まさにそうですね。

 

 

──羽生先生が特に面白いと思われたエピソードはありますか?

 

羽生 将棋の対局中に秀𠮷が抜け出して、限られた時間の中で暗号を解いていくお話は印象に残っていますね 。

あの話で秀𠮷が訪れる明治神宮は実際の将棋会館にも近いですしね。

▲羽生先生お気に入りエピソード「太閤恋する名人戦」の名シーン。

 

青山 チュウ𠮷、対局中にこっそり明治神宮まで行ってるんだよね。こんなことしていいのかなって棋士の人に聞いたら、当時は「ギリギリオッケーです」って。

 

羽生 あの頃は今と全然違って緩い時代でしたからね。さすがに事件解決に行く人はいないですけど、散髪しにいく人はいました。

 

青山 そのエピソードいいな(笑)。戻ってきたら「髪型違ってる!」って。

 

羽生 今は対局が始まってしまったら、終わるまではその建物の中にいるっていうルールになってしまって。

他にも電子機器を預けなきゃいけないとか、色々と変わってきました。前の方がある意味自由なところはあった気がします。

 

青山 そうそう、あの事件の動機に絡んでくる棋譜、あれは谷川浩司名人と羽生先生が対局されたときのを使わせて頂いたんですよ。

 

羽生 そうですよね! ああいう棋譜ってなんとなくは覚えているので、読みながら「見覚えがあるな……あ、これ自分が負けたやつか」って(笑)。

1993年の大阪での対局でした。あれは絶妙な一手で、相手の人はその真価に気づかなくて逆恨みするという話だったと思うんですけども、まさにピッタリだなと。

 

青山 名人戦を取材に行った時に、その場にいた棋士の方を捕まえて「記憶に残っている伝説の一手ってないですか」って聞いたら、あれしかないって教えてもらったんです。

「羽生さんが負けるやつか」と一瞬悩んだんだけど、結局それを使いました、すみません(笑)。

 

羽生 いえいえ。見事に負かされた一局だったんで、逆に印象に残っています。

コナンで取り上げていただけたらもう後悔はないです。

それともう一つ、盤の隅に香車が置いてあって、そのダイイングメッセージで犯人がわかるという話があるじゃないですか。

 

青山 懐かしい。「雪山山荘殺人事件」ですね。

▲羽生先生お気に入りエピソード「雪山山荘殺人事件」。

 

羽生 実は将棋の世界では「自分の一手を指す前に香車の位置を確認しなさい」という戒めがあるんです。

香車って四隅にあるじゃないですか。だから指す前に隅の香車を見ることで盤面全体をちゃんと一回見渡しましょうと。これもあのお話とピッタリですよね。

香車といえば、昔、子供の大会があったんですね。

着物着て子供同士で対局するんですが、普段は着慣れてないじゃないですか。

夢中になって指しているうちに隅の香車を袖で動かして、駒台にスライドしていて、気づかないうちに、いつ間にか持ち駒になってるんですよ。

 

青山 面白いですね。ミステリのネタになりそう(笑)。

 

羽生 よければ使ってください(笑)。盤上でどんどん手が進んでると何が起こってるかよくわからないので、そういう時には、いろんなトリックができそうです。

 

 

漫画で描く将棋の魅力

──青山先生が漫画で描かれて感じる、将棋の魅力とは何なんでしょう。

 

青山 ビジュアルがカッコいいっすね。駒を持つ手とか、考える時の扇子とかね。

 

羽生 指し手はすごく個性が出ますね。長年ずっと見てると、あの駒を動かす仕草でなんとなく誰が指しているのかわかります。

三つの指を使って駒を動かすんですけど、その動かし方が人によって違って、わかりやすく個人差が出るんですよね。

 

青山 すごいすごい、名探偵だ! 面白いですね。

ちょっとお聞きしたいんですけど、相手の駒の位置がちょっとずれてるなと思ったら、触ってもいいんですか。

 

羽生 さすがに目の前でやったら多分カドが立つと思いますが、相手が席を立っている間に微調整して、ということはあったりしますね。

基本は真ん中に置くんですけど、それぞれ自分の好みがあるんで、あれも個性出ますね。

 

青山 動かしていいんですね!

 

羽生 有吉道夫先生という大御所の先生がいらしたんですが、マス目の下の方の線に揃えてピタッと置くのがお好きだったんです。

そうすると、相手の方からは駒が遠くにいるように見える。で、有吉先生が席にいない間に真ん中に動かすと、戻ってきてまた線の下ギリギリに動かしたりして。

 

青山 あはははは。面白い。聞いてよかった。トリックに使えますね。いないときに触っていいんでしょ。将棋盤に血痕がついてたら、ずらして隠したりして(笑)。

 

羽生 古畑任三郎の中にもそんなお話がありましたよね。

 

青山 はいはい、「汚れた王将」。成ったら血が見えちゃう。あの回が特に好きです。

封じ手のトリックはどうだろうと思いながら見てましたけど、エピソードがカッコいい。



 

将棋と漫画の共通点

 

 

──青山先生は漫画を書かれる時に「長考」に入ることはありますか?

 

青山 あります、あります! 6時間ぐらい詰まっちゃって、うろうろ歩きます。

部屋中歩いて、それでも思いつかなかったら、「寝よ」って(笑)。

意外に寝てる最中に考えてて、「あ!」って言って起きて、はっと書いてメモって寝るみたいなこともあります。将棋では、対局中寝られないですよね。

 

羽生 将棋は頭の中でいつでも考えられますからね。

でも、やっぱり行き詰まって、あるところから全然前に進めなくなってしまう時はあります。色々思い浮かんでも、それがいいとはとても思えず、どうにもならなくなってしまうんですよね。

ついつい時間が経ってしまうことは多いんですが、長く考えたからと言っていい手ではない。

 

青山 将棋で封じ手ってありますよね。

あれって、封じ手をされた方は「あ、多分ここに指してくるな。どうしよう」って考えるんですか。それでもし予想が外れてたらダメじゃないですか。

 

羽生 封じ手って「もう絶対これしかない」という局面もあるんですよ。

その時はピンポイントで狙い打ちして考えることもありますが、一晩中考えていたのに、開けて予想と違う手が出てくると結構がっくりくるんです。

だからもう「明日になってから考えよう」と休んでるときもありますね。

これまでの経験だと、自分から封じ手するのは嫌だって棋士の方が多い気がします。

封じ手は一度書いたら変えられないので、自分の書いた手を一晩中後悔しないといけない。相手に決めてもらったほうが気持ち的には楽なんです。

 

青山 ああー、オレもそうだわ! 自分から封じ手はやりたくない。

でも、これは絶妙な好手だなっていう手が思いついたら書くかも!相手が羽生さんなら、開けて驚く顔が見たい(笑)。

 

羽生 なるほど(笑)。漫画を描かれる時も、読者にここで面白がってほしいっていうポイントはあるものなんですか?

 

青山 絶対ありますね。最近だと、サンデー付録の『黒鉄の魚影』の「黒鉄の書」。

あれがよかったよって感想を聞いて、「おー、届いてる届いてる! 嬉しい!」って(笑)。あの原画は大変だったんで、みんな喜んでてよかった。

 

羽生 映画公開よりもずっと前に原画を描かれているんですよね?

 

青山 公開の半年ぐらい前かな。漫画描きつつ、その合間に映画の原画もやって、コンテも直して……大変ですよ。

 

羽生 前はスピンオフもたくさん出してらっしゃいましたもんね。なんだか多面指ししているみたいです。

 

青山 多面指し! 将棋の盤が横にずらっと並んで……あれ、カッコいいですよね!

 

羽生 私、昔100面指しをやったことがあります。

 

青山 おお、すげえ! 全部勝ったんですか。

 

羽生 いやいや、40回くらい負けてます。将棋指すのはくたびれないんですけど、横歩きを4時間くらい続けるので疲れるんです(笑)。

 

青山 100面指しとはいえ、羽生先生にはそれで勝ったらめちゃめちゃ嬉しいですね。

 

羽生 100面くらいやっていると、どんな早くても一周5分くらいかかるんですね。

それで戻ってくると二手くらい動かしてる子とかいて「なんかこれ残像と違うな」って(笑)。

 

青山 あはは! でも100の盤面を覚えてるのがすごいですよね。

棋士の人って、将棋盤がひっくり返しちゃっても、並べられるっていうじゃないですか。

 

羽生 意外にちょっと慣れると誰でもできるんです。

音楽をやる人は楽譜を覚えないといけないですよね。それと同じで、将棋だと棋譜を覚えちゃうと、結構簡単に再現できるんです。

 

青山 いやいやいやいや! 簡単ですか!? すごいですよ。これまで指してきた様々な局面も覚えてるんですよね。

 

羽生 なんとなくですけどね。案外どうでもいいことのほうが覚えてたりするんですよ。

ここで王将戦の対局したけど、縁側で猫が五匹鳴いていたなあということを覚えていて、将棋の中身覚えてないとか。

それでいえば、『名探偵コナン』はこの前1111話に到達したんですよね。それだけ描かれてきて、同じようなコマを描けないじゃないですか。

 

青山 描いちゃいますよ、たまに。昔はね、オレが描いたコナン君は「あ、これはあの事件のあのコマだ」ってわかったんですけど、今は「オレの絵に似てるけど、え、これオレが描いたの?」って(笑)。

 

羽生 このトリックは前にやったな、みたいなこともあるんですか。

 

青山 自分で描いたトリックはさすがに覚えてますよ。

たまにアニメオリジナルで昔やってたのが判明して「やべ、変えなきゃ」ってことはありますけどね。

あと一番被るのは容疑者ですね。いっぱい描いてるから、似ないようにするのが大変で。人名はその時の題材に引っかけて、たとえば将棋だったら「二歩さん」みたいに作るんであまり被らないんですけど、ビジュアルがね。

つり目で眼鏡で口は大きいとか、大体同じ顔になっちゃうんで、難しいです。

 

 

17年前の「羽田浩司殺害事件」の真実

──今秋発売予定の104巻で、羽田秀𠮷の義理の兄・羽田浩司に関する、17年前の事件の真相がついに明かされます。

 

青山 前からずっとあたためていた話なんですよ。

ちなみに「浩司」ってのは谷川浩司先生から取りました。殺されちゃうキャラなので、すみませんけど(笑)。

羽田浩司はチェスの大会に出るんですけど、あのチェスをやっているっていう設定は羽生先生がモデルです。

チェスの大会にも羽生先生が出られているのを見て、すげえなと思って。

 

羽生 そうなんですね。でも出場は誰でもできますから。

それこそ七冠とったころ、休みができたらもうなんの前触れもなく大会に出たりしていました。最近はあまりやってないんですけどね。

 

青山 やっぱりチェスと将棋で考え方は同じなんですか。

 

羽生 いや、ちょっと違います。似たところもありますが、別物ですね。

 

青山 オレも調べたんですけど、チェックメイトの仕方も人それぞれなんですよね。自分の王を倒したり、持ち上げたり。

 

羽生 時計を止めたりする人も、握手して投了する人もいますし、個性が出ますね。

 

青山 藤井聡太先生もチェスやるんでしたっけ?

 

羽生 やってるという話は聞いたことありますが、彼の場合は一番好きなのは鉄道のほうだと思います。相当詳しいですよ。

 

青山 てつちゃんだったのか! すげえ。そんな棋士出したいな(笑)。

 

羽生 出てきたら「あ、これは藤井くんがモデルだ」って(笑)。

ちょうどタイトル戦は全国各地で行われるので、有名な列車に乗れるのを喜んでいるみたいです。

 

青山 なるほど、ちょっと見方変わっちゃいますね。

 

 

AIにいかに向き合うか

──羽生先生はコンピューターを使いこなしてこられて、そして今、AIを使いこなす若手の棋士たちと戦っていらっしゃいます。

 

羽生 すごく便利なツールや強力なソフトが今は出てきていますね。

ちょっと前だと「俺には俺流のやり方がある」と言ってソフトを使わないような職人気質の方もいたんですけど、残念ながら今の将棋の世界では「使わない」という選択肢はもうないです。

どういう風に使えばいいのか、いろんな人が試行錯誤しています。

 

青山 テレビで将棋を観ていると、羽生先生が指したら「勝率は何パーセント」みたいな数字が出るじゃないですか。

観戦してるほうは楽しいですけど、棋士としては嫌ですよね。自分が指した手が「え、これダメなの?」みたいな。

 

羽生 AIの評価値が出ますね。棋士は対局中見えないからいいですけど、あれって実は解説してる人が大変なんです。

「これはいい手ですね」って実況していたのに評価値が下がると、解説者の評価も下がってしまうんで、うっかりしたことが喋れない。

 

青山 解説する人の力量も問われちゃうのか!

 

羽生 私たちも対局が終わった後、感想戦を1時間くらいやるんですね。で、うち帰ってコンピュータで調べると、10秒くらいでその結論を全否定されて、唖然とすることがあります。

ですので最近は対局が終わった後、周りの人たちに「あの手の評価値はどうだったんですか」と聞くことが多いです。対局者はコンピュータの解析を見られないので。

 

青山 へえ。漫画で同じようなことができたら大変ですよね。次のコマに移った途端に読者の支持がガーンと下がったりしたら嫌ですよ(笑)。

漫画にもアンケートとかありますけど、オレは怖くて見ないです。エゴサーチもしないです。

 

羽生 でも青山先生の作品だと、読者の母数が何千万人という単位ですから、反響を見てるだけで日が暮れてしまいますよね。

 

青山 いやいやいや(笑)。

 

羽生 ぜひ一度お伺いしたかったんですが、漫画家には何の才能が必要だと思われますか。

 

青山 やっぱ話作りですかね。絵はずっと描いていれば上手くなるんですよ。だから話作りが一番の才能かもしれないです。

映画とかドラマとか、それこそ漫画をいっぱい読んでる人の方がいいのかもしれない。

 

 

──今、漫画の世界でもAIの導入について論争になってます。

 

青山 漫画は……多分無理かな。できたらすごいけど。面白い漫画はやっぱり人間が作んないと。

 

羽生 AIの専門家とも話すんですけど、一番難しいのが、人間の暗黙知をAIに教えることなんだそうです。

例えば自転車のバランスをどうやって取っているかは説明できないけど、ちゃんと自転車に乗れるっていうのと同じで、青山先生にどうしてそんなに面白い漫画描けるんですか、って言われても困ってしまう。でも描けるじゃないですか(笑)。

 

青山 困っちゃいますね。オレは本当に勘でしかないから。

 

羽生 暗黙知の典型みたいなものですよね。

教材がなく、学習もできないものはAIでも難しいみたいで、そういうクリエイティブなことはなかなか置き換わらないのかなと思います。

コナン風の劣化した漫画は量産できるかもしれませんが、ファンの方は喜ばない。

 

青山 オレ風の絵だけど、オレじゃなかった!って(笑)。ちょっと見てみたいけどね。でもセリフとかもあるし、難しいかな。

劇場版のセリフもいつも直していますからね。それこそコナンが言っちゃいけないセリフでも、脇の灰原が言うと締まったりしますから。

 

 

──『黒鉄の魚影』の終盤、灰原哀のセリフは印象的でした。

 

青山 あれは考えましたよ。考えたけど、直感もあるかな。

元の脚本に対して「オレならこうするな」って思って、あのセリフにしたんです。『黒鉄』の時は絵コンテのセリフでしたけど…

子供のときから、同じように思っていましたね。『仮面ライダー』とかを見てても、「自分ならこうする」「こうした方が面白いのに」って生意気に(笑)

羽生先生は対局中、どういう風に考えられます?

 

羽生 いくつかあるんですが、たとえば収束から考えていくってやり方がありますね。

「こういう風に終わらないとおかしい」っていう展開があるとして、その流れを思い描いて、ゴールに向かって辻褄を合わせていくんです。

あとは、それまで指してきた手を振り返って「ここまでのプロセスを考えたら、やっぱり次はこう行かないと」という、全体の流れの整合性から考えるということもあります。

 

青山 びっくりしたことにコナン描く時と同じですね、やり方が。

ミステリーって犯人決まってないといけないから、多分終わりから考えてますよ。

今回の『黒鉄の魚影』も、最後の××シーン、あのオチから考えたんです。

 

羽生 じゃあ、この話を聞いたら、もう一回映画観に行かなきゃいけないですね。

 

 

デビュー、そして世代を代表する立場へ

──青山先生が『ちょっとまってて』でデビューされたのが86年、

羽生先生が四段に昇格しプロ入りされたのが85年。デビューされた年が近いです。

 

羽生 デビュー当時15歳ですね。勤労中学生です(笑)。

でも弟子入りしたのが11歳、小学生なので、自分でこの道を選んだって感覚があんまりないんですよね。

もちろんプロを目指していたことは間違いないのですが、じゃあ将棋で一生やっていこうとか、そういう志を全く持ってなくて。漠然とプロ入りしたまま40年過ぎてしまいました。

 

青山 オレもちゃんとしたプロセスで漫画家になってませんね。

先輩の漫画家さんはいたんですけど、その人に手取り足取り教わったわけじゃないんで。独学というか、師匠みたいな人はあんまりいないんです。

 

羽生 コナン君はいつ青山先生の頭の中に誕生したんですか?

 

青山 ずっと前から考えていたわけじゃなくて、連載前の打ち合わせで、ほぼ30分くらいで決まりました。

そうだ、思い出した。最初は悪魔探偵みたいにしようと思ったんです。

物に触ったらその記憶がわかる、ずるい探偵にしようかと。でもやっぱり本格ミステリーにしようってことになって。

オレは『三毛猫ホームズ』が好きだったんで、あの猫を少年にしたら面白いんじゃないかって今の形に落ち着いたんだ。懐かしい。すぐ終わっちゃうと思ったの。マジで(笑)。

 

 

──『名探偵コナン』の連載がスタートした2年後、96年に羽生先生は史上初の七冠を獲られました。

 

青山 羽生先生に聞きたかったんですけど、七冠全部獲った時ってどんなお気持ちだったんですか。

 

羽生 その日、実はすごく体調が悪くて高熱が出ていたので、あまり覚えてないんです。だから夢の中にいるというか、あんまり現実味はなかったですね。

もう一つ感じたのは、世間の後押しの大きさです。指しているのは自分なのに、自分だけでやっているような気がしないといいますか。

周囲の空気が大きくて、自分の手を離れたように感じました。

 

 

──青山先生にとって、羽生先生の「七冠」のような節目はどこになりますか。

 

青山 冠とってないんで、イマイチよくわかんないですね。

若い時は、すごく高いビルの屋上の端っこを走ってるイメージでした。

景色はいいんだけど、足を踏み外したら落ちちゃう。「怖いな、でも走んなきゃな」って。今は歩いてます。

 

羽生 落ちないから、楽しんで景色を眺めているんですね。その屋上にはいつ立ったのでしょう?

 

青山 2億部か1億部突破した時か……いやでも、映画になったときかな。

 

羽生 コナンの映画は毎年公開されていて、街を歩いていたら至るところに大ヒット公開中の看板があるじゃないですか。

自分の作品が街中にあるってどういう感覚なのでしょうか?

 

青山 なんか不思議ですよ。誇らしいより、ちょっと照れるなって。コナンフェアとかやってると、見つかんないようにしようとか(笑)。

 

羽生 そういうものですか。私も電車に乗っていて、隣の人が将棋の本とか読んでたら席離れようかなってことはあります。

 

青山 ですよね! そうです、同じです。

 

 

──世代を代表してきたお立場として、プレッシャーはありましたか。

 

羽生 自分は近い世代の人のところに強い人がたくさんいたので、一人で走ってるっていうよりも、集団でマラソンしているような感じです。

もちろん多少の順位の入れ替わりはあるし、ライバルですけど、何十年もグループで走っている安心感みたいなものがあります。漫画は個人戦のイメージですよね。

 

青山 そうですね、個人戦ですね。

でも同世代の漫画家さんが、まだサンデーで頑張ってるんで、オレも頑張んなきゃなって思います。

『MAJOR』の満田くんとか、『絶対可憐チルドレン』の椎名くんとか、『双亡亭壊すべし』の藤田和日郎くんとか、『カナカナ』の西森くんとか…さほど交流はない方もいますけど、それでもやっぱり一緒にやっている同志ですね。

 

 

──これだけ長いキャリアを積まれていると、調子が良い時もあれば、そうでない時もありますよね。どういう風に向き合っていますか。

 

青山 わかります? 自分で調子悪い時って。

 

羽生 自覚はありますし、一年に何回かは「あ、もう全然ダメだった」って日もあるんです。もう、その日は諦めます。

どうしてもバイオリズムといいますか、コンディションの差はあるので、割り切るようにしてますね。

 

青山 オレもファンに評判が悪い時は「もう次、次!」って言って(笑)。

「こうしとけばよかったな」とか、いっぱいありますよ。そういうのしかないです。これは完璧だって思うことは絶対にない。

 

 

──調子が悪い時には、どのように取り戻していますか。

 

青山 昔面白かったドラマとか、アニメとか、映画とかを見て気分をあげるとか。面白かった頃の自分を思い出すというか……難しいですね。

 

羽生 今はデータベースを使えば割合短時間で昔の棋譜をぱっと見れたりもするので、気分を変えて、リフレッシュしたりしてますね。

 

 

──お二方が今掲げていらっしゃる目標を教えてください。

 

青山 なんとか上手くまとめて終わらせなきゃなってのが目標ですね。まだ終わんないですけどね(笑)。

これからも面白い漫画を、飽きさせないように描くしかないですね。

 

羽生 私も同じような感じで、あんまり先のことを考えると気が遠くなってしまうので、目の前のことを一つ一つやっていくっていうところですかね。

将棋もどんどん新しいものが出てくるので、チャレンジし続けていきたいなと思っています。

 

青山 羽生先生はいまタイトル通算99期。あと1期獲得で100期ですね。応援してます。

 

羽生 青山先生にはずっと描いていてほしいですね。

コナンは日常に溶け込んでいるじゃないですか。漫画に映画、グッズまで。これからもたくさんの人を楽しませ続けて欲しいなと思っています。

 

 

──本日はありがとうございました。

 

 

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羽生先生お気に入りのエピソードと、羽田秀𠮷登場のエピソードを無料公開!

【7/11(火)まで】

 

[羽生善治先生のお気に入りエピソード!]

  • 「雪山山荘殺人事件」(10巻 File9~11巻 File1)
  • 「太閤恋する名人戦」(85巻 File6~9)

 

[羽田秀𠮷登場エピソード 一部公開!]

  • 「現場の隣人は元カレ」(80巻 File8~10)
  • 「婚姻届のパスワード」(89巻 File8~10)
  • 「さざ波の魔法使い」(92巻 File2~4)
  • 「太閤名人の将棋盤」(98巻 File7~10)

 

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※ネタバレ満載のため、必ず「黒鉄の魚影」ご観賞後にご覧ください。

 



 

 

 

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